社員たちと共に目指していくのは、地域から愛され続けるゼネコン。
冬木工業株式会社
代表取締役社長 大竹 良明
1960年安中市生まれ。大学卒業後、約19年間の銀行勤務を経て、2003年 に冬木工業に入社。2008年、代表取締役に就任。群馬県鐵構業協同組合理事長、全国鐵構工業協会理事。
※所属・役職等は取材時点のものです。
お客さま、協力業者、社員、地域。四者の「よかった」を実現していく
冬木工業株式会社は昭和2年に創業した総合建設会社で、群馬県で地域ナンバーワンの会社を目指しています。一番の特色は、自社で鉄骨製作部門を持っているということ。ゼネコンでありながらHグレード(国土交通大臣が認定する性能評価)を取得した鉄骨製作工場を持っている会社は、全国的に見てもかなり珍しい存在です。
売上はゼネコン部門が6割、鉄骨部門が4割で、ゼネコンは関東を中心にその隣接地域で施工を行っています。鉄骨は首都圏を中心に、遠くは仙台から関西で施工を行っています。東京スカイツリーソラマチの柱も作りました。一番遠いところでは、マダガスカルに当社の鉄骨が運ばれて、建物に使われています。
ここ数年、会社として掲げている言葉が「四方よし」。お客さまが「冬木に仕事を頼んでよかった」、業者さんが「冬木の仕事を受けてよかった」、社員が「冬木に勤めてよかった」、そして地域の皆さんが「地元に冬木があってよかった」と思ってもらえるようにという、「4つのよかった」を実現しようと頑張っています。
きれいごとだと言ってしまうのは簡単でしょうが、実際に掲げて社員みんなで実践している。以前から、一度仕事をさせていただいたお客さまが二度、三度とご依頼くださることが多く、お客さまのご紹介でつながる縁も大切にしてきました。そういう意味でも「現場が一番の営業力」と社員たちには話をしています。
銀行からゼネコンへ転身。共通していたのは「形無きものを売る」こと
私自身は妻の実家の家業だったという縁で、42歳のときに入社しました。それまでは19年間銀行勤めでしたからまったくの畑違い。何も分からなかったので、最初は鉄骨工場で働かせてくれと頼んだのですが、まずはお客さまに顔を覚えてもらうためにゼネコンの営業をやるように言われました。自分なりに昔のお客さまのところに行ったり、営業について行って勉強させてもらったりしましたね。
そのうち、知り合いから「ゼネコンに行ったんだったら、今度工場を作るから相談にのってよ」といった話がくるようになって、徐々に新しいお客さまが増えていきました。
当時の営業は新規開拓があまりできていなかったのですが、逆に私は銀行時代、新規開拓で面談も断られるという経験をずっとしてきたので、あまり苦じゃなかった。新規のお客さまのかなりの先が、私が開拓を行ったお客さまという時期もありました(笑)。そこには「形の無いものを売る」という共通点があったのかな、と思います。
銀行は融資を売り込むといっても、確かにお金はあるけれど形あるものではない。建設も設計図をもらって施工して建物ができれば形になりますが、何も無い段階で営業をかけますよね。もともと、やるからにはしっかりやりたい性格だったということ、そして周囲が異業界から転職してきた私のことをすんなりと受け入れてくれたということが大きかったと思います。
自分は銀行に勤めていたときも決してヒーローではなかったんです。リーダーは自分の成績だけを伸ばすのではなく、部下たちがそれぞれ1でも2でも伸びるように指導して、チーム全体のベースが上がるようにすることが会社にとっても良いだろうというのが自分の考え。
そういう意識を持った部下たちが社内に散らばって、また部下を育てていってくれれば組織として強いですから。
サラリーマンだったからこそ分かる、社員のために必要な環境整備
経営者になってみて、約20年間純粋にサラリーマンとして働いて、こういう部分は変えた方がいい、と感じてきた経験が役に立っていると思いますね。例えば、当社では現在のように働き方改革が叫ばれる前から、時間外労働を削減して生産性を上げることに取り組んできました。
育休も男性社員が取らない理由を聞いたら「給料が減る」「有休を使いたくない」と言うので、新しい制度として年次有給休暇とは別枠で5日間の有給の育児休暇を設けたんです。お産のときくらいは奥さんのために時間を使ってほしいですから。それ以降は、87.5%の男性社員が育児休暇を取得しています。子どもの誕生祝いには、触れ合いの時間を持ってほしいという気持ちで、絵本のプレゼントもしています。
こうした対応は、小回りが利く中小企業だからこそ実現できるというのはあると思います。中途採用で入社した社員は「こんなところも会社が対応してくれるの?」と驚くようですね。
給料に関しても、10年以上前に「群馬県内の同業のなかで一番給料を払う会社にするぞ」と宣言したんです。ほぼ実現できているのかなと思いますよ。
何事もいい加減にやっている方が楽ですよね。でも、部活でも一生懸命頑張って、強豪に勝ったときの喜びってすごく大きいじゃないですか。だから、「同じやるなら一生懸命にやろう、嫌々やって過ごす人生なんてつまらないから、やるんだったら明るく元気に前向きに楽しくやろう」と社員には言い続けていいます。
真の顧客満足のために重要なのは、社員が心から前向きであること
同じことを新卒向けの会社説明会などでも話します。私は、就職は結婚と同じように相思相愛であってほしいと思っています。ですから、説明会には必ず自分が話す時間をもらって、私の考えていることを話します。
我々が「お客さまのためにいいものを作るぞ」と目を輝かせて仕事をしているからこそ、社員がお客さまから「〇〇さん、頑張ってくれてありがとう」と言ってもらえる。それが真の顧客満足度につながるのだから、我々は常にやりがいや充実感を持って仕事をやらなければ、という思いが根底にあるのです。
ですから、もともと職場環境やコンプライアンスはしっかりしている会社でしたが、私の代でより一層徹底してきました。決して売上第一主義、利益第一主義ではない。いろいろなことが重なり合って企業活動を行った結果が利益になっていると、私は考えています。地元から愛されている企業であるからこそ、売り上げもついてきているのかなと思います。
もちろん仕事ですから大変なこともありますし、ただ楽しいというわけにはいきませんが、みんなで力を合わせて壁にも向かっていこうねと伝えます。トップがそういうメッセージを発しないと、中間層も言ってくれないじゃないですか。ですから、事あるごとにそういうことは私から発信して、それに共感してくれた人に入社してもらいたいと思っています。
新卒募集では、最近女性の応募が6、7割と増えています。人からは企業イメージが良くなっている証拠ですよとも言われるのですが、少し驚いています。文系卒ながら入社してから3D-CADを覚えて活躍している女性も多数います。教えるのがすごく上手な先輩がいて、その人も文系卒の女性なんですよ。みんなで一緒にやろう、という気持ちが周りに伝わっている様子がとてもいいと思っています。
私は高卒、大卒、新卒、中途など、そこに垣根を作りたくない。一生懸命やっている人を評価したいし、受け入れる社員たちも区別することはないと思います。みんながひとつの仲間で、みんなで頑張ろうねという雰囲気がありますね。
60歳で異業界から当社へ中途入社。新たなインパクトを与えてくれた
中途で入社し、社内にさまざまな刺激を与えてくれている方もいます。大手企業の群馬にある子会社のトップだった方で、あるとき「60歳で退職をしようと思っているけれど、大竹社長と仕事がしたい」と言われまして、「この人が会社に来てくれるなら、どのようなことができるだろう」と考えたんですね。
そこで、新たにプロジェクト開発部を立ち上げて、提案型のセールスに特化した営業を担当してもらうことにしました。お客さまの事業に合った補助金情報も提案し、その申請のお手伝いをしてくれる専門家の紹介もしながら営業していくんです。当然競争になるのですが、あるお客さまは、費用は少し高くても、その他の提案が良かったからと当社を選んでくださいました。
また、伸び悩んでいたかなと思われる社員に営業同行してもらうなど教育的な面でも活躍しています。建設にはまったく関係ない業界から来て、最初は専門用語のひとつも知らなかったところから、こうして結果を出している姿を見て本当に嬉しかったですね。
群馬の魅力や群馬には良い企業があるということを発信し続けたい
私は群馬県安中市の出身で、高校卒業後に大学進学で東京に行き、本社が群馬の銀行に就職しました。地元で銀行員をやっていたので、いろいろな会社を知っている方だとは思いますが、それでもまだまだ群馬には私も知らない良い会社があります。
冬木工業も知名度が低い。合同説明会の会場がビエント高崎のとき、「この建物を誰が作ったか知っていますか?」と尋ねても誰も知らない。そこで「冬木工業が作ったんですよ」といつもお伝えしています。
社会人として東京で働いている群馬出身者の皆さんも知らない良い会社が群馬にはある。それを発信できていない我々にも問題は多々あると思っています。
経済同友会でも群馬の人口を増やさなければという話になるけれど、大学進学で県外に出た学生のうち群馬に戻ってくるのが3割くらいなんですね。だからこそ、我々群馬の企業たちが魅力ある会社になっていくと共に、群馬には良い会社があることを発信していくことで、群馬出身者だけでなく、この会社に勤めたいから群馬に来る、という人も増えてくるのではないかと思います。
東京との距離が、新幹線でも車でも約1時間ということを考えれば、群馬は住むにも勤めるにも良いところ。転勤で群馬に来た方は、みなさん楽しんでらっしゃいます。群馬という地域、そして全国規模の会社もたくさんある、という特色もアピールしながら、当社も一緒になって群馬を盛り上げていきたいと思っています。