人と環境をつなぐ技術で、持続可能な未来づくりに貢献。
東都成型株式会社
代表取締役社長 宇田川 誠
埼玉県生まれ。
1985年 北海製罐株式会社入社。
2017年 PT.ホッカン・インドネシア 代表取締役社長就任。
2021年 ホッカンホールディングス株式会社 常務執行役員サステナビリティ推進部長就任。
2024年 東都成型株式会社 代表取締役社長就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
工場アルバイトから始まった、ものづくりへの情熱と技術者への道。
私は埼玉県さいたま市で生まれ育ち、新卒以来ホッカングループの企業に勤務してきました。1985年に北海製罐へ入社したきっかけは、学生時代に同社の岩槻工場で容器製造の補助作業や検査業務のアルバイトをしていたことです。
さまざまな工場で働くうちにものづくりの現場に面白さを感じるようになり、大学の教授からの推薦もあって入社を決意しました。入社後は技術部門に配属され、15年間容器事業の技術開発に携わります。
当時はバブル期で、新しい設備や技術が次々と求められる時代でした。この時代に印象深いのは、液体窒素を充填して缶を膨らませ、適正な圧力を検査するシステム確立に取り組んだことです。
ビール用のアルミ缶は通常炭酸ガスで内圧が保たれています。一方、スポーツドリンクやお茶といった非炭酸飲料は殺菌のために高温で充填しますが、常温に戻ると缶が凹んでしまうため、充填時に液体窒素も同時に滴下して缶の圧力を保たせる技術が求められます。
1988年には、飲料事業に参入したJT(日本たばこ産業)の技術サポートも経験します。たばこ事業から飲料業界というまったく新しい分野への挑戦を進める中で、JT社員の新規事業にかける情熱と、確立されたマニュアルや管理体制の仕組みから多くのことを学びました。
こうした経験や顧客・サプライヤーとの絆は今でも大切な財産となっています。
大量生産の現場で直面した品質保証とマネジメントの責任。
その後、技術部門から品質管理部門へ異動となります。ここではそれまでの業務から180度転換し、商品に問題があった時にお客さま先へ対応に行くのが主な業務でした。
ナショナルブランドとの取引においては、一般のお客さまに絶対に迷惑をかけてはならないという厳しい品質基準が求められます。
そこで1分間に1,000缶を製造する大量生産の現場で、「いつ・どこで・どの缶を作ったか」をすべて記録できるトレーサビリティを整備。不具合発生時の嫌疑ロットの特定を迅速に行う重要性を学びました。
特に印象深かったのは容器内への異物混入問題への対応です。機械の油や検査時の糸くずなど、わずかな異物であっても混入は大きな問題へとつながります。
生産工場で洗浄しても取り除けない場合、そのまま一般消費者の手に渡る危険性があります。対象範囲のロット特定ができなければ、ロット全体の廃棄を求められることもあります。
ここでの8年間の品質管理経験を通じて、大量生産における品質保証の難しさと重要性を身をもって学びました。同時に品質保証部長や工場長としてのマネジメント経験も積み、さまざまな立場での責任の重さを実感しました。
インドネシア現地法人で挑んだ、品質向上と文化の壁への挑戦。
2017年、ペットボトルのプリフォーム製造から無菌充填まで一体化した複合事業を手がけるPT.ホッカン・インドネシア(ホッカングループ)の代表取締役社長に就任しました。
同社は2011年に立ち上がった現地法人で、顧客は大手ブランドのため高い品質基準が求められましたが、生産体制が安定せずに供給面で課題が山積していました。
最大の課題は現地スタッフとのコミュニケーションでした。現地では「ジュースは容器に詰めればすぐ売れる状態になる」といった認識で、充填プロセスがあまり理解されおらず、無菌状態の意味とその重要性を伝えるところから必要だったのです。
この課題を解決するために、まず優秀な通訳を確保しました。そして、毎週ホワイトボードに業務指示や問題点を書き出して翻訳してもらう仕組みを構築。「何をやってもらいたいのか」を明確に伝え、現地スタッフに正確な認識を持ってもらうことから始めました。
さらに、文化の違いへの配慮も求められました。イスラム教徒の多い現地では断食期間やお祈りの時間を配慮した勤務体制が必要だったのです。
私たち日本人の「当たり前」と現地の「当たり前」はまったく違うものであり、これらの経験から根気強く、諦めずに、分かりやすく伝えることが何より重要だと学びました。
現場運営から地球規模の課題へ転換したサステナビリティ推進業務。
2021年には、ホッカンホールディングスの東証プライム市場への移行に伴い、ESG経営への対応が急務となったため、同社の常務執行役員サステナビリティ推進部長に就任しました。
インドネシアから帰国後、海外の現場から一転してホールディングス規模での環境問題や人権問題といった地球規模の課題に取り組むことになりました。
それまで目の前の工場運営に集中してきた私にとって、急に地球規模で物事を考えるよう求められたため、正直なところ最初はイメージできずに戸惑いました。
加えて、具体的な業務内容もまったく経験のないものばかりでした。温室効果ガス排出量の測定や集計、CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)への報告、サステナビリティレポートの発行といった、これまでとはまったく異なる業務領域だったからです。
幸い、大手株主の方々からESG経営の課題をいただき、その対処方法を教わりながら手探りで進めていくことができました。
こうした経験を通じて企業の社会的責任の重要性に対する理解を深め、特に長期的な事業継続のためには環境対応が不可欠であるという認識を強く持つようになったのです。
会社が大きくなるにつれて対応すべき社会的な課題も大きくなるため、環境問題や社会課題への対応を単なる義務ではなく、新たな事業機会として積極的に活用していく必要があると感じています。
プラスチックの環境課題を事業機会に転換した、循環型経営への挑戦。
そして2024年、ホッカングループの東都成型株式会社代表取締役社長に就任しました。1954年創業の当社は戦時中に特殊潜航艇のエンジンを製造した技術者が立ち上げ、戦後プラスチック容器事業を始めた歴史ある企業です。
現在、プラスチック事業は環境問題への対応なくして継続は困難です。当社はこの課題を事業機会と捉え、積極的にさまざまな取り組みを進めています。
一例をあげると、飲料用ペットボトルのキャップを回収・加工して再生樹脂化を行い、化粧品パウチ容器のスパウトやダイレクトブロー成形ボトルの中間層に利用する循環型事業を展開しました。
この再生樹脂は石油由来原料に比べCO2排出を約58%削減(東都成型株式会社による試算)できます。この技術を活かし、クラシエホームプロダクツと共同開発した容器は2023年の日本パッケージングコンテストとアジアスターコンテストを受賞。当社の技術力を示す成果となりました。
さらに複合プラスチックのリサイクル技術を持つ株式会社esaと資本業務提携を結び、幅広い技術の確立を目指しています。
私たちは「作って終わり」ではなく、使用から再資源化までを見据えた事業を推進しています。環境への取り組みを発信した結果、協業希望の問い合わせも増え、方向性の正しさを実感しています。
現在の最大課題は物価高による収益圧迫と環境対応の両立であり、解決には技術力、営業力、総合力が不可欠です。今後も環境対応を付加価値とした差別化戦略を進めます。
「知識」より「意識」を重視した人材採用と、グローバル視点での組織運営。
私が人材採用で最も重視するのは、「意識」を持った人物です。
もちろん、プラスチック成形の知識を持つ即戦力も重要ですが、それ以上に仕事や人生を豊かにするための自己管理能力、状況把握力、他者への配慮、そしてコミュニケーション能力を大切にしています。
なぜなら、技術や知識は入社後にいくらでも身につけられますが、内面的な意識を変えることは困難だからです。実際、意識の高い人は成長が早く、結果として会社全体を活気づけてくれます。
また、グローバル化が進む現代においては、多様な背景を持つ人材の採用も積極的に行っています。
国籍にかかわらず、優れたコミュニケーション能力や仕事に対する高い意識を持った方を歓迎し、技術、営業、生産管理、企画、SCM(購買)など、さまざまな職種で多様な人材が活躍できる環境づくりを進めています。
私たちと一緒にプラスチック業界の未来を変える挑戦に参加しませんか。環境問題を事業機会と捉え、高い意識を持った仲間たちとともに新しい価値を生み出していく東都成型で皆さまをお待ちしています。