「つなぐ力」で未来を描き、 群馬の経済に新しい風を吹かせる。
ぐんま地域共創パートナーズ株式会社
代表取締役社長 鏡山 英男
東京都生まれ。慶應義塾大学卒業。
1994年 株式会社第一勧業銀行(現みずほ銀行) 入行。
2001年 人事コンサルティング会社 入社。
2005年 株式会社産業再生機構 入社。
2007年 株式会社経営共創基盤 入社。
2021年 ぐんま地域共創パートナーズ株式会社 代表取締役社長就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
東京で生まれ育ち、群馬の地域創生へ。多彩なキャリアに育まれて。
私は東京生まれ東京育ちで、キャリアのスタートは第一勧業銀行でした。入行後は築地支店に配属され、水産関連の企業を担当。それから30歳で人事コンサルティング会社へ転職し、経営戦略と人事戦略を結びつける仕事に取り組みました。
しかし、銀行員として話をしたときは社長が耳を傾けてくれたのに、同じ内容をコンサルタントという立場で話すと聞いてもらえない。この時は肩書きの持つ影響力の違いを実感しました。
その後、3年間の人事コンサル経験を経て、「事業再生に携わりたい」という想いから産業再生機構へ入社しました。そこで大型案件に関わる一方、鬼怒川温泉の旅館や地域の中小企業など、地域に根差した企業の再生も手がけました。異なる専門家との協働で、異なる言語を「翻訳」できることが自分の強みだと気づいたのもこの時期です。
その後、経営共創基盤(IGPI)の創業メンバーとして参画して14年ほど在籍し、日本郵政に転籍して民営化支援や郵便ネットワーク利活用に携わるなど、多数のプロジェクトを経験。こうした多様な経験が現在の仕事につながっていると思います。そして2021年に、群馬銀行100%出資の「ぐんま地域共創パートナーズ」の代表に就任しました。
私がこの道を選んだのには、いくつかの理由があります。地域に根差した企業の再生に関わった経験から、地域経済の活性化にはかねてから興味を持っていました。中でも、群馬は東京から新幹線で1時間圏内にありながら製造業や観光業を擁する日本の縮図のような面白い地域です。
いま日本の多くの地方都市が抱えている課題に対して、私のこれまでの銀行員時代、再生機構時代、IGPIでの経験を活かして取り組めるのではないかと感じたのです。
「地域貢献 × 収益追求」両立を実現する八つの重点テーマ。
当社は地域課題の解決に向けて八つの重点テーマを設定しており、これらは主に「事業テーマ」と「支援インフラテーマ」の二つのカテゴリーに分かれています。
まず主要な事業テーマとして、まちづくり、町の面的再生、ヘルスケア、循環型社会の形成、製造業の進化、物流の活性化などがあります。そして、これらの事業を支えるインフラとして、人材の確保・育成とスタートアップ支援を位置づけているのです。
ファンド会社である私たちは投資に対するリターンを追求する必要がありますが、単純な事業収益だけを目指すのではなく、地域貢献との両立を重視しています。この二つのバランスを取ることは容易ではありませんが、だからこそ挑戦する価値があると考えています。
当社は設立から4年間でさまざまなプロジェクトを実現してきました。例えば、伊香保温泉での町づくり会社「石楽」の立ち上げ、地域発電会社の創設、農業スタートアップ支援などです。
中でも特に印象的だったのが伊香保温泉での取り組みです。伊香保温泉の一等地には、20~30年もの間営業していなかった木造4階建ての建物がありました。私たちはこの建物に耐震工事を施し、全フロアを活用できるようにしました。
さらには、使われていなかった建物を単なる宿泊施設ではなく、体験施設やクリエイター作品の販売スペースなど、人々が集い滞在し、そして地域を回遊する起点となる場所として再生させました。これにより、地域課題の解決とテナントを入れて持続的な収益を生み出せる仕組みの両立を実現しました。
キーワードは「手触り感と掛け算」。地域に根差した投資の哲学。
私が投資先を選ぶ際にまず大切にしているのは「手触り感」です。大規模なプロジェクトも大事ですが、現場に入って実際に成果が見える案件に魅力を感じます。
かつて日本郵政の民営化支援において多数のステークホルダーを巻き込んだプロジェクトでも、大きな構想を描くだけでなく、具体的な取組レベル・現場にまで落とし込むことで実践的な手応えが生まれることを学びました。
投資の世界でも同様で、組織が大きすぎると手触り感がなくなりがちです。だからこそ、プロジェクトベースで関わることができ、変化を肌で感じられる仕事に面白さを見出しています。
もう一つのキーワードは「掛け算」です。単に出資するだけでなく、さまざまな要素や事業者を掛け合わせて新しい価値を生み出すことを重視しています。
例えば、日本農業という農業スタートアップへの投資では、彼らが持つニュージーランド発祥の高密植栽培法という、生産性の高い技術の普及に向けた取り組みを支援しています。彼ら自身が青森でリンゴ農家をしながら、その技術を他の事業者が活用できるようにパッケージ化します。
群馬銀行グループでは、新たに農業に進出したい法人を紹介し、当該法人が生産したものを日本農業が買い取って海外で販売するという循環を目指しています。このように、事業者連携によってレバレッジが効き、シナジーを生み出せるビジネスモデルに大きな魅力と将来性を感じます。
とはいえ、地域課題の解決と収益性の両立は簡単ではありません。地域ビジネスは手間暇かかる割にリターンが高くないという構造的な課題もあります。
しかし、これらの課題は知恵と工夫次第で克服できると信じています。それだけに、ロールモデルを示し、持続可能な仕組みを作ることが私たちのミッションだと思っています。
新しい地域経済圏の創造。単独の限界を超えた座組みづくり。
地域経済を活性化させるためには、単独の企業や自治体だけの力では限界があります。私たちが目指すのは、さまざまなプレイヤーが手を取り合って新しい経済圏を作る「座組み」の構築です。
例えば、再生可能エネルギーの問題点として、地域に大規模発電所ができても、その電力は東京で使われるといった構造も生まれがちです。だからこそ、地域で生み出されたものが地域に還元される循環型の経済圏を作ることが重要なのです。
また、建設業界では後継者不足による廃業が増加し、地域のインフラ維持が難しくなっています。この課題に対して私たちは佐田建設と共同でファンドを設立し、事業承継支援に取り組んでいます。当社とグループ関係にある群馬銀行は「私たちは『つなぐ』力で地域の未来をつむぎます」というパーパスを掲げています。
私たちも同じく、それぞれが得意な領域を持ち寄り、手を取り合って大きなことを実現する座組みを作ることで、地域が生き残る道を開きたいと考えています。現在、ぐんま地域共創パートナーズは約100億円のファンドを運用していますが、次のステージとして他の事業会社などと共同でファンドを作り、成功モデルを拡大していく構想を持っています。
このように、今までのロールモデルに賛同いただける方々と一緒に、より大きなスケールでビジネスを展開していきたいと考えています。単に出資するだけでなく、ビジネスモデルを創造し、地域経済の好循環につなげていくことこそが我々の使命といえます。
志とビジネス理解の両立。地域に根を張る人材を求めて。
私たちは、最初から完璧な人材を探すのではなく、成長可能性と意欲を持つ人との共成長を大切にしています。欲を言えば「志があり、ビジネスがわかり、数字も見られる人」が理想ですが、そのような人材は稀だと思うからです。
一般的にコンサル経験者は大手PEファンドやベンチャーキャピタルに進むことも多いですが、私たちの投資スタイルは、それらの会社と少し異なります。市場規模や成長性といったポテンシャルを評価することも重要ですが、我々は、それらに加えて個々のビジネスを丁寧に見てビジネスモデルの把握や地域とのシナジーを考える姿勢を重視しているのです。
銀行出身でビジネスに関心がある人、ビジネスを学びたい会計士、実務経験を求めるコンサル出身者など、バックグラウンドは問いません。大切なのはビジネスへの関心と現場での「手触り感」を求める姿勢です。
私たちは単なる財務リターンではなく、地域ビジネスの面白さに共感できる人材を求めています。東京の大手コンサル会社のような高額報酬は提供できないかもしれませんが、社会的価値と経済的価値の両立に挑戦できる環境があります。将来的に大手ファンドを目指す人にとっても、実力を養うよい場になるでしょう。
出資は地域の未来をつむぐこと。持続可能なビジネスモデルの実現へ。
私たちの今後のビジョンは、これまで築いてきたロールモデルを広げ、地域経済の好循環を生み出すことです。すでに前橋市に本社を置く佐田建設との共同ファンドを設立するなど、次のステージへの動きも始まっています。
群馬には大きな可能性があります。東京に近く安定した経済圏であるため、これまで激しい競争にさらされずに来ましたが、日本経済全体が厳しさを増す中でさらなる変化が求められています。
2025年には移住希望地ランキングで1位(ふるさと回帰支援センター調査)になるなど、魅力ある地域としての認知も高まっています。だからこそ、当たり前のことを続けるだけでも伸びる余地があり、首都圏との近さを活かしたビジネスも十分に展開できるでしょう。
当社の使命は、「出資」を通じて地域の発展と好循環の自走に貢献し、適正な収益を確保しながら持続可能なビジネスモデルを構築することです。単なる儲けにとどまらず、次世代に引き継げる仕組みづくりこそが地域金融機関の本来の役割であり、私たちはその触媒となることを目指しています。
私たちはこの4年間、地域課題解決のプロジェクトを積み上げてきましたが、経済的インパクトという観点においてはまだ課題も多くあります。地域ファンドはリターンが少なく、安定した利益を得るには相当な工夫が必要です。
だからこそ、私たちは地域を愛し、知恵を出し、共に汗をかける人材を求めています。なぜならば、そうした人材こそがこの地域にとって真の資産となりうるからです。そのため当社では、すべての社員が一丸となって成長できる環境を提供したいと考えています。
ぐんま地域共創パートナーズは、投資リターンだけでなく地域社会の未来を創る仕事です。10人ほどの小さな組織ながら、各人の影響力が大きく多様な経験ができます。
求めるのは「ビジネスへの関心」と「手触り感のある仕事への意欲」です。地域社会に貢献し、社会的・経済的価値の両立というやりがいをなによりも大切にしています。地域創生や社会課題解決に挑戦したい方、ぜひ一緒に地域の未来を「つなぐ力」で紡いでいきましょう。