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DXの先に目指す将来の姿は製造部門を持ったシステム会社。

株式会社土屋合成
代表取締役社長 土屋 直人

更新日:2023年7月26日

1968年 群馬県富岡市生まれ
1991年 株式会社土屋合成入社
2006年 代表取締役就任
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

DXによる業務改革が認められて「DXセレクション2023」を受賞。

土屋合成は父が創業した精密プラスチック射出成形品加工メーカーで、2022年に創業50周年を迎えました。私は2006年、38歳のときに社長を継いで、自動化を進めてきました。2023年3月にはDXを活用した業務改革の成果が認められて、経済産業省の中小企業を対象にした「DXセレクション2023」の準グランプリを受賞しました。

少し前のIT、IoTから特にやっていることは変わらず、デジタルを意識するというより人手がかからないようにと考えて進めてきたことが、そうした評価や売上の伸びなどに繋がっていると思います。

私が物心ついたときには父は勤めていた会社を退職して起業していましたが、その頃の記憶にあるのは家内工業という印象の規模感でした。私は次男でしたが、家業を継ぐように言われていて、県内の高校を卒業して東京の工業系専門学校に4年間行き、卒業後はすぐ会社に入りました。

その時で社員は10人くらいの零細企業。もともとはカセットデッキやカセットテープのプラスチック部品から始まり、徐々に製品の幅を広げていきましたが、手のひらに載るサイズの部品というのはずっと変わらないところです。

成長してきた要因のひとつは、お客様に恵まれたこと。メイン顧客に大手文具メーカーの基幹工場がありますが、30年来のお付き合いです。様々な部品の生産が海外に移行していく時代を迎えて、ボールペンなどの生産はすぐに持って行かれるだろうと言われていたのですが、気がつけばそのまま残っていた。

逆に、現在はメイドインジャパン文具としてその価値を打ち出していて、海外向け市場がとても伸びているので、それに伴って当社も売り上げを伸ばせています。また、現在はEV向けの高精度部品の受注を増やそうとしていて、その準備段階でもあります。

24時間、365日稼働するための手段として早い段階からシステムを導入。

そうしたお客様のニーズに応える仕事ができた要因には、早いうちから自動化に目を向けて取り組んできた点があると思います。入社して最初は現場に入りましたが、私自身は技術者には向かないと思って、そこは得意な方に任せようと決めました。

一方で、実際に作業をするなかで、ここはロボットを入れた方がいい、ここは自動化した方がいい、といったことに気づいたんですね。当時はまだ作業用ロボットは存在していなかったのですが、アイデアはあって、技術が進んでいくなかで順次導入していきました。

当時から工場は24時間、365日稼働していました。プラスチック製品は単価が安く、大量に作ることで利益を生まなければならないので、父はそのやり方をとっていたのですが、夜間や休日は働いてくれる人が集まらなくて苦労しました。人がいないときは私が入る、という対応をしていましたね。それもあって、先行投資にはなるけれど、なるべく人手に頼ることなく生産をやっていけるよう体制を整えてきました。

社内には2022年から専門部署のDX課を作っています。メンバーは製造、品質保証、生産管理などの課の若手社員が兼務していて、デジタルを利用して効率化や業務改善に取り組むチームとして活動しています。若い人の方がデジタルツールに慣れているというのもあるし、業務の流れのなかで「どうしてこんなことをしているんだ?」ということにも気づきやすいんですね。ベテランだと慣れてしまっているので、当たり前すぎて疑問を抱かないんです。

製造機能を持っているシステム会社という将来像。

自動化に積極的に取り組んできたことで、機械から様々な情報を得られるようになってきたので、今後はその情報をシステム管理していくことが非常に重要だと思っています。品質保証についても、人がしっかり見るという考え方から、画像を残して製造記録をデジタル化することで、データが品質保証に繋がるようにしていきたいと思っています。ですから、あらゆるものからデータを取得する技術や、システムを管理する技術がかなり重要なのです。

私が考えている土屋合成のこれからの姿は「製造機能を持っているシステム会社」という表現になります。実際、別会社を作ってIT関連の仕事を始めています。東京には最先端の素晴らしい技術を持つITベンチャーがたくさんありますが、まだまだできることは多くあると最近気づいたんです。

なぜなら、そこにいる開発者には技術を実用化するための機会が無いんですね。そういった技術を、工場を持っている我々が工程に落とし込んで、実証化していくという取り組みをすでに始めています。それを受けて、単に製造業ですというより、IT会社が製造部門を持っていると表現した方が、若い世代にも興味を持ってもらえるかなと思っています。

土屋合成の工場を最先端技術で業務改善していく実証の場に。

情報を取得した先で、それを効率化に活かしたい。例えば製造を担当している入社1年目と10年目の人がいると、10年目の人の方が仕事を円滑にできますよね。その理由は経験。「湿度が上がると、機械から不良品が出やすい」とか、そういったことが経験から身に付いている。

それをAIで判断して、「今日は寒いからここに注意しよう」といった情報を伝えることができるようにしていきたい。樹脂成形に限らず、製造なら何でも気温や湿度の影響を受けるので、他ジャンルへの応用もできると思います。

また、いま当社が機械化できず課題だと思っているのが、色の確認です。オーダーに合わせて着色料を配合していくのですが、ピンクひとつ取っても濃いものから淡いものまでいろいろなバリエーションがある訳です。

それを今は比較管理と言って、色見本に照らし合わせて人の目で良し悪しを判断しているんです。周囲の光の加減でも感じ方が違うし、社内でも判断が付きにくいときは多数決で決めるという曖昧さが残るレベルなんですね。ただ、いまはそれしか方法が無い。理由は色を数値化する技術が世の中に無かったからです。

厳密に言うとあるにはあるんですが、AIを使うので莫大な費用がかかるなど、汎用性が無いんですね。それが、その技術を持っている企業と知り合うきっかけがあって、いま共同で自動化に向けた取り組みを進めています。

カメラを通して数値化することで、色の正しさを証明できますし、生産効率も上がります。しかも、色の判断をする場面は様々な製品で求められるので、新しいサービスにも展開できると期待しています。このように当社なら製造工程のなかで最先端の技術の実証化ができるし、業務改善につながった事実があれば、他社にも売りやすくなる。そうなって初めて、システムに価値が出るのだと思います。

将来はシステム外販のほか、ロボット製作も手掛けたい。

お話ししたように、これからの土屋合成は製造機能を持っているシステム会社という個性を強めながら、システムの外販もやっていきたいと思っています。そうしたビジョンを共有できる人と一緒に働いていきたいですね。

デジタル情報を活かして、省力化に向かっていける人を求めますし、将来はロボットを社内で作れるようにしたいというビジョンもあるので、それに共感していただける方に来てもらいたいです。一方で金型を作る人も必要で、これは自動化もできないので非常に重要です。

システム関連の部門については、週の半分は東京、半分は富岡、という働き方も考えています。別会社では、家から出られず社会生活から孤立してしまった方も採用して、在宅勤務でシステム開発を担ってもらっています。そして郷土愛というか、富岡を盛り上げたいという思いがある方なら、より良いですね。

そういう意味では、二重就労でも構わないと思っています。正直なところ富岡でIT人材を採っていくのは至難の業なので、今後も幅を持った採用をしていきたいと考えています。

編集後記

コンサルタント
板橋 盤

昭和47年、日本近代産業発祥のふるさと群馬県富岡市にて創業した同社は、プラスチック射出成形品加工メーカーとして文房具や時計、自動車等の部品の加工を手掛けてきました。

今回のインタビューで特に印象的だったのは、土屋社長が将来の同社の姿を「製造機能を持っているシステム会社」と表現されていたこと。その言葉の通り、積極的にDX化を推進し、工場の効率化や業務改善に取り組み、経済産業省の中小企業を対象にした「DXセレクション2023」の準グランプリも受賞されています。

創業から長年にわたり蓄積されたノウハウを基盤に、さらなる設備や技術を積み重ね、価格・納期・品質とハイレベルに三拍子揃った同社だからこそ、お客様に選ばれ続けているのだと知りました。

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